SPECIAL GUESTS
第6回 造形作家:富田 薫さん

いくら暑い夏でも、秋にはなるもんだ。今回のお客様は造形作家、富田薫さんです。「HandSomeWORKS」というブランド名で、いろんな物を、・・そう、ホントにいろんな物を造っています。朝日出版社から「SHAPER'S HIGH」という本も5月に出版しました。昨年の夏、前々回のお客様の橋本尚美ちゃんの紹介で、私がHandSomeのHPを作らせてもらい、今春オープン。以来、家がわりと近くて、酒飲みでもあり、猫好きでもあり、しょっちゅう会っているので、今さらインタビューっていっても何聞きゃいいんだよなぁって感じではありますが・・。しかも、前日しこたま飲んだらしい。(2002年9月)

BANANA
「BANANA」
F.R.P製のバナナ椅子。座り心地良し。現在は猫のお気に入りの寝場所らしい。

いなだ:本が出てから約4カ月、みんなの反応はどう? 私はドラマを見ているようで、すっごく面 白い本だと思ったんだけど。

富田:友だちも、そうでない人も、読んでくれた人には評判いいよ。

いなだ:そもそも、この本を出版することになったきっかけは?

富田:仕事のわりには知名度がないので、雑誌のコラムに連載なんかしたらいいんじゃないかと思って、「美術」というネタでサンプルを書いて、出版関係のいろんな知人に見せたんだよね。そしたら、一冊の本にしましょうってことになって。「その日の10円」が「将来の100円」になったってこと。

いなだ:本を書くって、やっぱり大変だった? それとも楽しかった?

富田:苦しかった~~~!! 自分の「事実」を書かなきゃなんないし。書いたことがないからわかんないけど、「作り話」のほうが気が楽かも。雑誌のエッセイとかなら「この時期は猫の抜け毛がひどいです」なんてことを書いてもいいかもしれないけど、本だから、全体を考えなきゃいけないし。しかも、締め切りがない。「書き上がるまでお待ちしています」なんて言われて、それがまたつらい。書いてる間、1年くらいは、仕事をしてても、テレビを見てても、何をしてても「罪悪感」みたいなのがあった。本当は1週間に1章づつ書いて、月曜には出版社に送る予定だったんだけど、日曜の夕方、「サザエさん」が始まると憂鬱になる子どもみたいになって、「書けなかった言い訳」を考えたり・・。ひとつの物を、こんなに長い時間をかけて作ったのは初めてだなー。

ボインミサイル
「ボインミサイル」
マジンガーZに出てくるアフロダイAというキャラクターが持つ兵器。(出題者:小泉今日子)

いなだ:「美術」という仕事に就くことになった最初のきっかけは映画制作だったって本に書いてあったけど、映画はどんな映画が好き?

富田:最近、あんまり見てないなー。高校生の頃は「ぴあ」とかにしるしつけて名画座とか行ったりしてたけど。今は職業柄、美術が凄いって言われる映画は見たいと思う。あと性格柄(?)ヘンな監督の映画も好きかな、デビッド・リンチとかテリー・ギリアムとか。あのサム・ライミが撮った「スパイダーマン」とかちょっと興味あるなー。

いなだ:「スパイダーマン」ねっ。そういえば、この前、「スターウォーズ」見たんだけどね。う~ん、人間、年をとると、説教臭くなるんだろうか? 宮崎駿とかもそうだけど、見た後、すっきりしないんだよね、どよよ~んって。CGで何でもできる分、作りが安易な気もするし。私は初期の黒澤っぽい「痛快活劇」がいいんだけどなー。じゃぁ、最近、読んだ本で、面 白かった本はある?

富田:面白い本っていっても・・。いちばん多く読んでるのは純文学でもなく娯楽で もなく「中間小説」なんだろうけど、とにかく、何でも読むからね。昔は三島由紀夫とか、谷崎潤一郎とか、よく考えたらアクの強いのに限ってたけど、いちおう「文学」してたけどね。今でも 超メジャーはあんまり読まない。でも宮部みゆきと京極夏彦は好きだな。新刊が出たら必ず買う。

souvenir
「souvenir」
個展のおみやげとして作った、透明樹脂製の作品。

いなだ:そうか、やっぱ若い時は三島と谷崎って、はずせないアイテムなんやね。あたしゃこのごろいわゆる「マニュアル本」しか読んでないけど(笑)。あー、そうそう、「SHAPER'S HIGH」は感動した! で、最近、「すっげぇーっ!」と思ったことは?

富田:二日酔い。きのうのバカ騒ぎ(笑)。すっげぇーバカだと思った(爆笑)。

いなだ:あはは。そりゃすっげぇーやね。お大事にー。ところで、「物事をうわべだけで判断する習慣」って、どうしたら身に付くの?

富田:本にも書いたでしょ、幼稚園に戻れって。なんでも興味を持つこと、不思議がること。私から見れば、たとえそこら中にあふれている車だってテレビだって「これ、どーやって作るんだぁ?」って思わないことのほうが不思議。いちいち銅線で繋いでいた配線を、金属の粒子を混ぜたインクをシルクスクリーンで基盤に刷ることによってコンピューターの 小型化が出来た、なんていう話を、面白いと思えるかどうかだよね。そういう人間の「創意工夫」って凄くない? ミクロサイズのベアリングのボールを作るのに、型とったりいろいろやっても正球にならなくてうまくいかなかったんだけど、お母さんが手でお団子を作る様子を思い出して、ボールを板で挟むようにして丸めたらうまくいったっていう話しとか、感動モノでしょ? 結局、美術館やギャラリーにあるものだけが「アート」じゃないよ、って言う発想をすることかな。

聖のオディール 虚のオデット
「虚のオデットと聖のオディール」個展のために、自腹で組んだセット。(出題者:広田レオナ)
CAMERA
「CAMERA」
撮影可能な中古カメラを使った作品。これは現在、いなだが持ち主。

いなだ:ええ話しやなぁ~(涙)。そういえば、イカの足抜き機ってあるんだよね。イカの頭から足を抜くっていうだけの機械なんだけど、世の中にはそういうのをどうやって作るかずぅ~っと考えている人がいるんだよねー(笑)。どうやったら機械でイカの足がうまく抜けるか? 必要な物だから、いっしょうけんめい考えて研究するんだろうけど、なんとなくばかばかしくもあって、面白いと思うなぁ。

富田:今の世の中は、ものすごいテクノロジーで成り立っているんだよね。普通はそういうことを考えないだけ。このテクノロジーがいきなりなくなってしまったら、みんな生活できないでしょ。せいぜい、種を蒔いて実を食べるとか、ヤリで獲物を捕る「狩猟採集」の真似事しかリアルに想像できない。テレビの無い家なんて今どき無いだろうけど、ゼロからテレビを作れる人なんて居ないでしょう? それだけ人類が長いことかかって作ってきた「創意工夫」の積み重ねって凄いんだと思う。だから私はアーティストって名乗る人より、学者とか、技術者のほうが親近感を感じるし、面白いと思うな。

いなだ:ひとつのことを、ずぅ~っと研究し続けてる人って、やっぱりすごい。・・おっと、話が脱線しそうだ。それで、今までの仕事で、「こりゃ~失敗したぜ」っていうことってある?

富田:途中で人に振ってしまったことが一回だけある。あるミュージシャンのツアーで使うかぶり物なんだけど、FRPで作ったら、重すぎて演奏できないって、ダメ出しされた。歩いたりするだけなら大丈夫なんだけど、演奏するには重すぎたのね。作り直すにも、もう他の仕事が入っていて、できない。結局、師匠(多田佳人氏)にお願いして、なんとか間に合わせてもらった。今、考えても、メチャメチャくやしい!!

いなだ:じゃぁ、今まで作ったすべての作品の中から、気に入ったものをひとつだけ選ぶとしたら?

富田:やっぱり、「ボインミサイル」かな。作り込みの丁寧さと、デザインの美しさと、コンセプトの面 白さがね。

いなだ:ん~、なるほどね。物を作る時、いつもこころがけていることは?

富田:完成度。「こんなもんでいいや」なんて、考えない。できてから「こうでもよかったかも」って言わせたくない。「やっぱり、こうでなくっちゃね!」って言ってもらわなくっちゃ。

いなだ:撮影のために物を作ることと、実際に使われる物を作ることでは、同じ「作る」でも違うよね?

トルソ
「トルソ」
ジュエリー・アーティスト、中西和歌子さんの作品展示用に作ったトルソ。

富田:撮影のための物なら、撮影している間だけもってくれればいいってこともあるけど、実際に使う物は強度が必要。誰かに使ってもらうってことは、「そこんちの子になる」っていうか、お嫁に行かせるみたいな気持ちね。「かわいがってもらうんだよぉ~」って。

いなだ:これからやってみたいと思うことは?

富田:もっとオリジナルを増やして、HandSomeブランドを定着させたい。

いなだ:仕事でもなく、誰かに頼まれたでもなく、個展を開いて誰かに見せるでもなく、自分のためだけにスペシャルな何かを作るとしたら、何を作る?

富田:自分のために作るのは、実用的な物だな。棚とか。でもさ、いい物ができたら、絶対、人に見せたいじゃん? 自分の部屋もけっこう気に入っているから、みんなに来てもらいたいし。

いなだ:そりゃそーだなぁ。いい物は見せたいやね。「どぉよ?」って。では、今の薫ちゃんにとって、「物を作る」って何?

富田:仕事。「お金を稼ぐ手段」という意味ではなくね。

いなだ:では、そろそろメシでも食って、今日は早く寝る!・・だな。二日酔いのところ、お疲れさまでした。あ、インタビューの中の質問の意味がわからない人は、悔しかったら本を買ってね。

姿見
「姿見」
ウッドカービングの技法で作った姿見。
富田 薫 PROFILE
1964年 東京生まれ。
高校在学中より、友人達と自主映画を制作。卒業後、あえて美大、専門学校等へ の道を選ばず、映像メディア関係のアルバイトを転々とし、1984年頃より、現多田美術、多田佳人氏のもとで美術造形の仕事を始める。
1998年 初個展、「HandSome」を開催。
1998年 名護市田井等に移転 2000.11 オーストラリア移住
2002年

これまでの仕事歴をつづったエッセイ『SHAPER'S HIGH』を朝日出版社より出版。

現在、これまでの「撮影のためだけに製作する美術」という仕事の枠組みを越えて、「HandSomeWorks」をブランド名とした、オリジナルの作品を広く、一般 の人に届くように計画中。
HandSomeWORKS HandSomeWORKS
富田さんの作品の紹介やメイキングダイアリーなど。
HandSomeWORKS EC HandSomeWORKS EC
富田さんの作品を購入できるWEB SHOP。
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